特殊建築物について、もっとマニアックに追求してみる

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特殊建築物の種類

特殊建築物については建築確認 特殊建築物についてで簡単にまとめていますが、ここではもっと深く掘り下げて見たいと思います。
過去記事と重複する部分もありますが、ご容赦ください。
建築確認 特殊建築物について

まずは、一言で「特殊建築物」といっても、基準法のなかでさえ使い分けがなされているという事実を再確認してみます。

法2条2号の特殊建築物

(用語の定義)
第二条  
この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(中略)
二  特殊建築物 学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様とする。)、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。
(以下略)

法2条2号で、用語の定義として特殊建築物とは何ぞや、と定義しています。
しかし、建築確認において特に厳しい規定を受けるのは、次に掲げる特殊建築物のことです。

法6条1項1号の特殊建築物

(建築物の建築等に関する申請及び確認)
第六条  
建築主は、
(中略)
確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。
(中略)

 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が百平方メートルを超えるもの

  (い) (ろ) (は) (に)
  用途 (い)欄の用途に供する階 (い)欄の用途に供する部分((一)項の場合にあつては客席、(五)項の場合にあつては3階以上の部分に限る。)の床面積の合計 (い)欄の用途に供する部分((二)項及び(四)項の場合にあつては2階の部分に限り、かつ病院及び診療所についてはその部分に患者の収容施設がある場合に限る。)の床面積の合計
(一) 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場その他これらに類するもので政令で定めるもの 3階以上の階 200平方メートル(屋外観覧席にあつては、1000平方メートル)以上  
(二) 病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類するもので政令で定めるもの 3階以上の階   300平方メートル以上
(三) 学校、体育館その他これらに類するもので政令で定めるもの 3階以上の階   2000平方メートル以上
(四) 百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場その他これらに類するもので政令で定めるもの 3階以上の階 3000平方メートル以上 500平方メートル以上
(五) 倉庫その他これに類するもので政令で定めるもの   200平方メートル以上 1500平方メートル以上
(六) 自動車車庫、自動車修理工場その他これらに類するもので政令で定めるもの 3階以上の階   150平方メートル以上

この法6条1項1号の規定で、別表1(い)欄に掲げる用途に該当する特殊建築物を絞り込んでいます。
この別表1の用途たちが、建築確認における特殊建築物であると言えます。

特殊建築物の基礎知識と雑学

特殊建築物は何が特殊なのか

特殊建築物として定義される建築物の用途を分類してみると

・不特定または多数の者が使用する、もしくは利用する。
・火災発生の危険性が高い、もしくは火災が発生した際に重大な被害をもたらすおそれがある。
・非常時に人命や周辺環境、財産に及ぼす影響が大きい。
・周囲に与える公害など、影響力が大きい

ということがわかります。
つまり、存在そのものが「特殊」だから、「特殊建築物」なのです。
ゆえに、建築物の構造や設備(単体規定)が強化され、立地条件を厳しく制限(集団規定)されるわけです。
考えてみれば当たり前のことですが、意識して法チェックをすると、見え方が変わってきます。
建築基準法の構成 単体規定と集団規定について

特殊建築物の変遷

建築基準法が施行されたのは昭和25年11月23日です。
それ以降今日に至るまで、度重なる法改正を経ていますが、法2条2号の特殊建築物は、施行当時より規定されています。
当初、特殊建築物とされていた用途は、

学校、病院、劇場、観覧場、百貨店、市場、舞踏場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と殺場その他これらに類する用途に供する建築物

でした。
昭和25年といえば、金閣寺が放火により消失した年でもあります。

昭和28年の改正で、と殺場がと畜場に改められました。
これは昭和28年にと畜場法が制定されたため、法律上の表現を統一したものと考えられます。
と殺もと畜も意味は同じです。
ちなみにこの年にNHKが日本で初めてテレビ放送を開始しました。

昭和34年の改正で、学校(各種学校を含む)、体育館、集会場、展示場、市場、遊技場、下宿、火葬場、汚物処理場が特殊建築物に仲間入りしています。
ちなみにこの年は、南極昭和基地のタロとジロの生存が確認された年です。また、ザ・ピーナッツがデビューしました。

昭和50年の改正(昭和51年施行)で、学校に専修学校が含まれるようになりました。
ちなみにこの年はローソンが設立され、ザ・ピーナッツが引退した年でもあります。

平成4年の改正(平成5年施行)で、舞踏場がダンスホールとなりました。
ダンスホールっていうのも、いまどき微妙な表現ですが、舞踏場よりは近代的になりました。
で、この年はというと、元メジャーリーガーの松井秀喜が5連続敬遠をされた年です。

というわけで、建築基準法が施行されてから、特殊建築物の定義に関してはほとんど変わらず今まで来ていることがわかります。
あまり具体的に用途示さないことで、新しく登場する建築用途に対して基準法上の特殊建築物のどれかを当てはめようとすれば何とかなる、という現状が生み出されています。
細分化すればきりがないのですが、あまりに漠然としているために、さまざまな解釈が出現する弊害もあります。

特殊建築物と建築確認

立地条件に対する制限

集団規定の制限のうち、用途地域による建築制限は特殊建築物にとって厳しく定められています。

特に、卸売市場、火葬場、と畜場、汚物処理場、ゴミ焼却場などは、都市計画により都市施設として定められています。
それだけ、周辺環境への影響が大きいということがわかります。

また、特殊建築物の接道に関して、特定行政庁が条例により規制を厳しくしている場合があります。

例としては、敷地が道路に接する長さの制限、接する道路に対するより広い幅員の要求、建築物の避難口からの避難経路や幅の確保といったものです。

法43条2項で、条例による制限の付加について規定されています。
さらに、駐車場附置に関する条例においても特定の用途とその規模、立地条件に応じて、規定が定められている場合があります。

構造に関する制限

特殊建築物の構造に関する制限とは、法20条に規定される構造計算云々という話ではなく、耐火性能に関する構造をいいます。
特殊建築物だからといって、鉄骨造や鉄筋コンクリート造にしなければいけないというわけではなく、木造の特殊建築物もありますし、特殊建築物でなくても、法20条の構造規定は適合させなければなりません。

具体的な構造方法はなんであれ、いわゆる耐火要求が厳しく求められるのが、特殊建築物であるということになります。

別表1を見ればわかる通り、特殊建築物の用途、階数や用に供する面積によって、耐火建築物や準耐火建築物としての性能が求められます。
よく見ると、(い)欄の1から6の異なる用途に分類されているものでも、似たような規制を受けるものもあり、用途が異なっても人命や環境、財産を守るための本質は同じであると言えそうです。

詳細な規定は、建築基準法施行令第4章が該当しています。

耐火要求については防火避難規定 法27条の耐火要求を一覧にしてみるで確認できます。

防火避難規定

上の構造規定の項目で、耐火要求について記載しましたが、防火避難規定の範疇に含まれるとも言えそうです。

法6条1項1号に規定される特殊建築物は、建築確認では、建築士の設計による特例は受けられません。
逆に、木造2階建ての一戸建て住宅は3号特例または4号特例が受けられますが、4号特例では法35条について審査の対象となります。

法6条1項1号に規定される特殊建築物も当然法35条の規定について適合させなければなりませんが、この規定がいわゆる難解な防火避難規定の項目となっています。

建築基準法施行令第5章が防火避難規定に関する条文となっており、この章だけで本が1冊できるほど、難解な条文とさまざまな取扱が待ち受けています。

建築物の防火避難規定の解説2012 建築物の防火避難規定の解説2012
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それだけ特殊建築物は社会に及ぼす影響力が大きいということです。

工事中の特殊建築物に対する措置

建築基準法では、工事中の特殊建築物に対する措置についても規定しています。
普段ほとんど目にすることのない条文ですが、法90条の2に定められています。

(工事中の特殊建築物等に対する措置)
第九十条の二  
特定行政庁は、第九条又は第十条の規定による場合のほか、建築、修繕若しくは模様替又は除却の工事の施工中に使用されている第六条第一項第一号から第三号までの建築物が、安全上、防火上又は避難上著しく支障があると認める場合においては、当該建築物の建築主又は所有者、管理者若しくは占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の使用禁止、使用制限その他安全上、防火上又は避難上必要な措置を採ることを命ずることができる。
2  
第九条第二項から第九項まで及び第十一項から第十五項までの規定は、前項の場合に準用する。工事中に使用する意味がよくわからん、という方もいらっしゃるかもしれませんが、ケースとしては
・小規模な修繕や模様替え、除却工事といった、建築確認が不要な工事中の使用
・大規模な修繕、模様替えや増築であっても、避難施設などに関する工事がない場合
・特定行政庁の「仮使用の許可」を受けている場合
等が考えられます。法90条の2による措置を受ける場合は、工事中の安全対策や工事そのものが余程ひどい場合だと思いますが、その措置に対して従わなければ、法99条に規定される罰則があります。みなさんには縁が無いことを願いますが、もしお時間がありましたら法99条を読んでみるのもいいかもしれません。

法別表1に記載の用途ごとの重点チェックポイント

ここでは、実際に法6条1項1号の特殊建築物に対する法チェックについて書こうと思いましたが、過去の記事にちょうどいいものがありましたので、ご覧いただければ幸いです。

建築確認 別表1の特殊建築物用簡易チェックシート

用途変更の申請が必要な特殊建築物

法87条の規定により、建築物の用途を変更して、「法6条1項1号の特殊建築物」にする場合は、用途変更の建築確認申請が必要になります。
ここでも、「法6条1項1号の特殊建築物」といっていますから、事務所や工場といった用途の場合は、用途変更は不要です。
用途変更については、基準法の記載も大変ややこしく、これに既存不適格建築物が絡むと相当面倒なことになります。

既存不適格建築物の用途変更も一筋縄ではいかない

具体的なケースを幾つかご紹介します。

・延床1000㎡の遊技場(パチンコ店)を全て食品工場に用途変更する場合
これは変更後の用途が6条1項1号の特殊建築物ではないため、用途変更の建築確認は不要です。
これが、自動車修理工場だったり、物販店舗となると、用途変更の建築確認が必要です。

ここで、一部分の90㎡を物販店舗にする場合は、これもまた6条1項1号の特殊建築物ではないため、用途変更の建築確認は不要ですが、そのあとで、また新たに一部分の90㎡を飲食店として用途変更する場合は、最初の物販店舗と合計すると100㎡を超えますから、用途変更の建築確認が必要、ということになります。

10㎡以内の増築だったら何度繰り返しても建築確認は不要ですが、用途変更にいたっては特殊建築物に該当した段階で建築確認の申請が必要になるので、間違えないようにしましょう。

まとめ

日本で建築される建築物のうち、1割は特殊建築物であると言われています。
一戸建ての住宅は特殊建築物ではありませんが、共同住宅は特殊建築物です。
住宅という括りだけでみても、建築基準法上の扱いは大きく異なります。

山奥でひっそりと自給自足しているような生活ではない以上、必ず日常のどこかしらで特殊建築物に関係しています。
たまにはそういった視点で建築を見てみると、建築基準法も捨てたもんじゃないと思えるかもしれません。

建築基準法 目からウロコの確認申請
by カエレバ

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