令第126条の2第2項による排煙別棟の規定は、昭和46年1月1日から施行されているて、まあまあ古いといえます。
ちなみに現行の建築基準法は昭和25年11月23日(勤労感謝の日)より施行されているので、約20年後に加えられた規定ということになります。
排煙別棟の取扱いについては、
そぞろさん(頼む!排煙別棟の規定は増改築のみなのか?新築でも適用できるのか?ハッキリしてくれ!|そぞろ (note.com))
をはじめ、
【Q&A】排煙上別建物(愛知県)|海老名剛|ワクコエテ_建築基準法コンサルタント (note.com)
など、見解をまとめてくださっている方々がいらっしゃいます。
これらの記事により、過去来増築のみに適用可能とされていた(そのように扱われていた)規定が、新築でも適用できるということが白日の下に晒されました。
そんななか、もうちょっと他にも取扱いを示している行政があるかもしれないということで調べたところ、さらに踏み込んだ取扱いを見つけましたので、まとめておきます。
排煙別棟の規定と避難時の安全性との関連
いくつかの取扱いを横断的に参照することで、排煙別棟の適用条件だけでなく、安全な建築物となるように設計するにはどうすべきかということも見えてくるかと思います。
また、設計者視点だけでなく、建築行政側の視点からの考え方も垣間見ることができるかと思います。
近畿建築行政会議 建築基準法 共通取扱い集 2022(第2版)の場合
近畿建築行政会議は、近畿圏(2府4県)内において、建築基準法に基づく特定行政庁と指定確認検査機関を会員として設立された行政会議です。
(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県で、三重県は含まれていない)
近畿建築行政会議が発行している共通取扱集には以下のような記述があります。
08 令第126条の2第2項の取扱い(P95)
内容
令第126条の2第2項は、新築・増築を問わず適用可能な規定として取り扱う。
解説
令第126条の2第2項の規定は、煙に対して他の部分と完全に区画され、さらに避難上も独立して機能するような建築物の部分はそれぞれ独立の建築物とみなし、排煙設備の規定を適用するものである。
同項第1号に関して、法文上は新築・増築の区別をしていないが新築建築物には原則として適用しない、とされてきた経緯がある。しかしながら、国土交通省のパブリックコメントにおいて、「令第126条の2第2項は増築・新築の別によらず適用可能な規定」と回答がなされていることを踏まえ、同項第1号・2号ともに新築時にも適用可能な規定として取り扱うこととする。
新築建築物への同項第1号の適用に関しては、過去からの経緯も鑑み、区画された各部分にそれぞれ避難経路、屋外への出口を設ける等、避難上支障がないようにすること。
参考
・逐条解説 建築基準法 P.547
・『今後の建築基準制度のあり方について「既存建築ストックの有効活用、木造建築を巡る多様なニーズへの対応並びに建築物・市街地の安全性及び良好な市街地環境の確保の総合的推進に向けて」(第三次報告案)』に関するパブリックコメントの結果概要(令和元年12月11日 意見募集の結果について)
この取り扱いで最も重要な部分は、新築増築ともに適用可能としている部分はさることながら、「煙に対して他の部分と完全に区画され、さらに避難上も独立して機能するような建築物の部分」のくだりでしょう。
避難時に区画した部分を通過しなければならないような計画では、確かに排煙を別々で計画した意味がありません。
愛知県建築基準法関係例規集[平成29年版](愛知県特定行政庁等連絡会 編)の場合
次に、愛知県建築基準法関係例規集[平成29年版](愛知県特定行政庁等連絡会 編)における取り扱いを見てみましょう。
建築基準法の取扱い – 愛知県 (pref.aichi.jp)
■ 排煙設備による別棟区画の取扱い(平15.10 [改正]平29.4)(P123)
(1)
略
(2)
新築、増築の建築物に係わらず令第126条の2第2項の規定によって区画した場合は、それぞれ別の建築物とみなす適用ができるものとする。
なお、既設部分が既存不適格建築物で、既設部分と増築部分とを、令第126条の2第2項の規定によって区画した場合、既設部分については遡及適用されない。
また、区画した部分の風道の貫通については、排煙上の別棟区画であることから、風道の貫通は避けるべきであるが、やむを得ず貫通する場合は、煙感知器連動の防火ダンパーを設けなければならない。
愛知県の取り扱いでも、新築、増築の区別なく適用できるとなっています。
また、近畿ほど厳しい要求はありませんし、既存不適格部分に遡及適用しないことなどの解説もあります。
建築基準法等専用掲示板(ちょっと懐かしいサイト)の場合
昔の掲示板、建築基準法等専用掲示板 [排煙設備の2項区画について]
も、この規定のこれまでの扱われ方を示す有効な記載が多く載っています。
簡単にまとめると
「増築により排煙設備が必要になってしまった建築物への救済措置として存在している規定なので、新築に対して適用することはまかりならん」
という感じです。
これを見る限り、令和元年のパブコメ回答がもたらしたインパクトは絶大だったと言えるでしょう。
金沢市建築基準法関係取扱基準の場合
金沢市建築基準法関係取扱基準(PDFが開きます)では以下のように記載されています。
P18
令第126条の2 排煙設備の別棟規定の適用について運用
令第126条の2第2項第一号の適用については、増改築時のみにかかわらず新築時も可とする。解説
令第126条の2第2項第一号の適用については、従前から増築時における既存部分の救済措置としてきた。しかし、平成30年の国土交通省パブリックコメントの結果概要において、「新築か増改築かにかかわらず適用することが可能な基準です。」と明確に示されたことから、新築時も可とする。参考
・国土交通省パブリックコメントの結果概要(平成30年2月16日結果告示、『今後の建築基準制度のあり方について「既存建築ストックの有効活用、木造建築を巡る多様なニーズへの対応並びに建築物・市街地の安全性及び良好な市街地環境の確保の総合的推進に向けて」(第三次報告案)』)履歴
・令和5年(2023年)4月1日公表
金沢市ではくだんのパブコメ結果を受けて取り扱いを更新した、と捉えることができます。
追加の制限や、解説については特に言及していません。今後追加されていくことも考えられそうです。
熊本市建築基準法取扱の場合
熊本市の取り扱いについては、上のリンクから入ってPDFを閲覧することで確認できます。
熊本市建築基準法取扱(2023年度版) (PDFが開きます)
P42
排煙規定上の別棟扱いについて令126 条の2・2 項の規定は、既存不適格の建築物の増築に対する救済規定として設けられたものであるので、新築の建築物には適用しない。なお、令126 条の2・2 項に規定する排煙規定上の別棟とみなす為には、それぞれの区画で避難規定を満足する必要がある。
解説:
増築部分、既存部分それぞれの区画の避難経路を共有することは出来ない【例2】。また、避難規定の要求により2以上の直通階段を設ける場合も、同様にそれぞれの区画の避難経路を共有することは出来ない【例4】。いずれも、それぞれの区画で避難規定を満足する必要がある【例1】、【例3】。参考:詳解建築基準法改訂版P438、建築設備設計・施工上の運用指針2019年版 P97、質疑応答集第1巻P2202
熊本市では、新築では不可となっています。
取り扱いも頻繁に更新されているようで、2023年版が最新版ですが特にパブコメ結果に言及する様子もありません。
ただ、避難計画については区画部分を共有することはNGとしている部分は近畿の解説と同様です。
避難経路とすることはもちろん、2直の階段も区画ごとに設けるべし、との解説はわかりやすいですし、腑に落ちます。
どうしても新築で採用したい場合、行政と協議する余地はあるかもしれませんので、ダメ元でチャレンジしてみましょう。
兵庫県 建築確認申請等の手引の場合
建築確認申請等の手引(令和6年4月改訂版)その1(目次、取扱編)(PDFが開きます)
61 排煙設備 令第126条の2第2項について(P79)
内容
令第126条の2第2項の規定は、法第3条第2項(法第86条の9第1項において準用する場合を含む。)の規定の適用を受けない建築物であって、新築、増築、改築、移転、大規模の修繕、大規模の模様替又は用途の変更のいずれかを行う建築物にも適用することができる。解説
令第126条の2第2項は、煙に対して他の部分と完全に区画されるような建築物のそれぞれの独立部分などは、それぞれ別の建築物として排煙設備の規定が適用されることを規定したものである。
内容は、令第126条の2第2項の規定が、法第3条第2項(法第86条の9第1項において準用する場合を含む。)の規定の適用を受ける建築物(以下「既存不適格建築物」という。)以外の建築物に適用することができることや増築に限定されないことなどを明確化したものである。従来、令第126条の2第2項本文及び同項第1号に関して、「排煙設備技術基準」では、『令第126条の2第2項の「規定は、そもそも既存建築物の増改築に伴い、既存部分にも排煙設備に係る規定が適用されることとなる場合の救済規定として設けられたものであるので、新築の場合にはこれの規定の適用はないと考えるべきである」』(3 法令に関する質疑応答)とされていた。また、「新・排煙設備技術指針 1987年版」では、「新築の場合には、この規定の適用は慎重に行うべきである」(第2章 法令等に関する質疑応答)とされていた。
その後、平成17年6月1日に施行された改正後の法第86条の7第2項、法第87条第4項、令第137条の13及び令第137条の14では、令第126条の2第2項と同様の既存不適格建築物に対する緩和規定が設けられ、結果的に、既存不適格建築物に対する法第86条の7第2項等の規定の適用範囲と既存不適格建築物以外の建築物に対する令第126条の2第2項の規定の適用範囲が区分されていると解される。
また、『今後の建築基準制度のあり方について「既存建築ストックの有効活用、木造建築を巡る多様なニーズへの対応並びに建築物・市街地の安全性及び良好な市街地環境の確保の総合的推進に向けて」(第三次報告案)』に関するパブリックコメント(平成30年1月19日まで実施)の結果概要では、『排煙上別棟の基準(令第126条の2第2項)は、「新築か増改築かにかかわらず適用することが可能な基準」』であるとされている(令和元年11月23日まで実施された建築基準法施行令の一部を改正する政令案に関するパブリックコメントの結果においても同様)。
新築等でも採用できる、ということまでが記載されているだけで、近畿共通取扱いのように踏み込んだ記載まではありません。
しかし、排煙別棟規定のこれまでと今後を明快にまとめてくれている、ありがたい資料です。
また、兵庫も近畿圏であることから、近畿共通取扱いの適用を受けることとなりますので、この記載と近畿取り扱いを複合させて考えることができるかと思います。
排煙別棟についてまとめてみた、のまとめ
令第126条の2第2項の区画のそもそもの意図としては、新築時には排煙設備が不要だった用途規模の建築物が、増築により排煙設備が必要となった場合、既存部分の改修に多大な負荷(さまざまな制約や改修コストなど)がかかるために設けられた規定と捉えることができます。
しかし、避難計画などに配慮した適切な計画を持ってすれば、新築であっても適用して構わないと国交省は考えている、と判断できます。
具体的な取扱いを示している行政もあれば、特に示していない行政もありますが、計画するうえで重要なことは、近畿共通取扱いのようにただ単に壁や防火設備で区画するのではなく「煙に対して他の部分と完全に区画され、さらに避難上も独立して機能するような建築物の部分」として成立させることではないでしょうか。
審査側の理解や知識も試される部分かとは思いますが、緩和的な規定の恩恵に与るにはそれなりの措置、対策を取って然るべきではないかと思います。