【令和元年改正】延焼のおそれのある部分の定義見直しについて告示が公布、同日施行

こちらの記事(平成30年改正法の全面施行にあたっての注意点など)で少し触れていましたが、令和2年2月27日に公布された告示で、延焼のおそれのある部分の定義見直しが行われました。

この告示は公布日に即日施行されていますので、すでに現時点で効力を発揮しています。

どのような改正となったのか、見ていきます。

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【令和元年改正】延焼のおそれのある部分の定義見直しの概要

前述の告示の詳細情報は以下の通りです。

国土交通省告示第197号 令和2年2月27日(公布の日から施行)
「建築物の周囲において発生する通常の火災時における火熱により燃焼する恐れのない部分を定める件」

法第2条第六号において、いわゆる「延焼ライン」として、隣地境界線等(隣地境界線、道路中心線または同一敷地内の2以上の建築物相互の外壁間の中心線)から一定の距離以内にある建築物の部分を延焼のおそれのある部分と定めていますが、この部分から除外できる部分として以下の2項目が追加されました。

(1)隣地境界線等から、建築物の階の区分ごとに所定の式によって計算した隣地境界線等からの距離以下にある当該建築物の部分

(2)他の建築物の地盤面から、次の式によって計算した他の建築物の地盤面からの高さ以下にある建築物の部分

正確には、(1)(2)の両方に該当する部分が最終的に「延焼の恐れのある部分」となります。
しかしながら、この文面だけではさっぱり何のことかわからないのでそれぞれ詳しく見ていきます。

延焼のおそれのある部分の定義見直し:隣棟間の水平方向と高さ方向の両方が緩和される場合

まず気を付けたいのは、この告示で緩和されるのはあくまで「隣棟間」に限られているということです。

さらに、水平方向と高さ方向の両方を緩和できる場合には、相手側となる「他の建築物」の耐火性能も要求されます
(上の前提条件で(1)(2)の両方に該当させたい場合)

例えば学校、工場など同一敷地内に複数棟の建築物が存在するような場合にはメリットがありそうです。

逆に、敷地が狭く建物全周が隣地境界線等からの延焼ラインの影響を受けるような建築物の場合、すなわち純粋な隣地境界線または道路中心線からの延焼ラインは緩和対象になりません。

2棟以上存在していても、延べ面積が500㎡以内であれば延焼ラインが発生しませんので同様です。

あくまで、「延焼ラインの発生する隣棟間」なので、新旧問わず建築物同士の場合に恩恵がある緩和となっています。

また、相手側の「他の建築物」に耐火性能がない「その他」の建築物である場合、高さ方向の緩和はありません。

この点を勘違いするとあとあと大変なので、しっかり押さえる必要があります。

では、詳細な条件を確認します。

建築物相互の外壁間に生じる延焼ライン緩和適用に求められる「他の建築物」の要件

●令第107条各号(耐火構造)
●令第107条の2各号(準耐火構造)
●令第108条の3第1項第一号イおよびロ(耐火性能検証)
●令第109条の3第一号若しくは第二号(ロ準耐)
●令第136条の2第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物
(延焼防止建築物若しくは準延焼防止建築物

いわゆる耐火、準耐火建築物やそれに準ずる性能を有する建築物、ということになります。

水平方向の算定の具体例など

まず水平方向については以下の式によって計算した水平距離までを「延焼の恐れのある部分」とすることができます。

対象となる階 隣地境界線等からの水平距離(m
1階 d1=max{2.5,3(1-0.000068θ²)}
2階以上 d2=max{ 4 ,5(1-0.000068θ²)}

上の計算式のθとは、隣地境界線等に面する建築物の外壁面とその隣地境界線等とのなす角度のうち最小のもののことです。

θは角度の値をそのまま式に代入できます。なす角度が45度なら「45」をそのまま代入して計算します。

また、隣地境界線等ごとに「d」の値を算出します。

以下に具体例を掲載しますので、じっくり眺めて理解してください。
(改正法の質疑応答集からの抜粋となります)

suihei01
↑隣地境界線等(つまり他の建築物との中心線)が外壁面に平行でない場合の考え方

kyoukai wankyoku
↑隣地境界線等(つまり他の建築物との中心線)が湾曲しているときの考え方

suihei02
suihei03
↑なす角をもとに距離dを算出。平面と立面での該当部分の確認

suiehi04
↑隣地境界線等(つまり他の建築物との中心線)が2以上ある場合の考え方(基本は同じ)

suihei05
suihei06
↑隣地境界線等(つまり他の建築物との中心線)そのものの求め方とdの算定

高さ方向の算定の具体例など

これまでは計画建物が100階建てで他の建築物が2階建てだったとしても、100階建ての2階以上の部分は100階まで延焼の恐れのある部分が発生することとなっていました。

実際問題としてはそんなに高くまで延焼するわけもなく、その不合理を解消するための緩和となっています。

高さ方向については、以下の式により算定します。

他の建築物の高さが5メートル未満の場合
h=h low+5+5√{1-(S/d floor)²}

他の建築物の高さが5メートル以上の場合
h=h low+10+5√{1-(S/d floor)²}

(ルート記号のうしろはすべてルートで括られています。念のため。)

式の中の各記号の意味は以下の通りです。

h:他の建築物の地盤面からの高さ(m)
h low:他の建築物の高さ(m)
S:建築物から隣地境界線等までの距離のうち最小のもの(m)
d floor:イ(水平方向の算定)に規定する隣地境界線等からの距離のうち最大のもの(m)

それぞれの式の具体的な相違部分は、他の建築物の高さの条件により、式の途中の数値が5か10かという点だけです。

それでは具体的な算定例を見てみます。

takasa 01
↑まずは式中の値Sを求めます。

takasa02
takasa03
takasa04
↑各種条件で決まる値から延焼の及ぶ範囲としての高さを求めます。
水平方向と高さ方向の両方に当てはまる計画の場合、その両方に含まれる部分が最終的な「延焼の恐れのある部分」となります

takasa05
↑Sの値を求める際の参考例

延焼のおそれのある部分の定義見直し:隣棟間の水平方向のみ緩和される場合

延焼の恐れのある部分が発生する場合の隣棟、つまり「他の建築物」が

●令第107条各号(耐火構造)
●令第107条の2各号(準耐火構造)
●令第108条の3第1項第一号イおよびロ(耐火性能検証)
●令第109条の3第一号若しくは第二号(ロ準耐)
●令第136条の2第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物
(延焼防止建築物若しくは準延焼防止建築物

のいずれにも該当しない場合、緩和されるのは水平方向のみとなります。
(例えば敷地内に単独で建築する場合は、隣地境界線からのみの検討となりますから、水平方向のみに緩和を適用することができます)

算定方法は同じです。

【令和元年改正】延焼のおそれのある部分の定義見直しのまとめ

延焼のおそれのある部分の定義見直しについてまとめますと、

・隣地境界線等と言ってはいるものの、高さ方向へも緩和を適用できるのは隣棟間の延焼の恐れのある部分についてのみである。

・隣棟、すなわち「他の建築物」の耐火性能によって、緩和できる部分が異なる。

という2点がまずは理解しておかなくてはならない点です。

該当する告示(令和2年国交省告示197号)は一号、二号で構成されており、一号は隣棟間、ニ号はそれ以外となっております。

一号では水平方向と高さ方向について算定があり、二号では「前号イについて」とありましてこれはすなわち「水平方向のみ」という意味です。

つまり、繰り返しになりますが、1棟のみの建築の場合は隣地境界線からの水平方向についてのみ緩和を適用できるということです。高さ方向の緩和は建物同士の場合に限られるわけです。

加えて、告示と同日に発出された技術的助言には以下の内容が明記されています。

・隣地境界線等が複数の線分で構成されている場合は、各線分を一つの隣地境界線等として捉える。

・これまで通り中心線から3m、5mを延焼の恐れのある部分として計画することにはまったく問題ない。

・当該告示の規定を適用する場合は、規定に基づいた計算内容等を必要に応じて明示、もしくは添付する必要がある。

この告示を実際に適用する具体例として考えられるのは、新築建物側の延焼の恐れのある部分にかかる外壁や開口部に所定の性能を必要とする部分が最小限で済むのはもちろん、既存もしくは「他の建築物」となる隣の建築物にとっても当然同様に緩和されます。

つまり、既存建物の外壁や開口部の改修部分を最小限に抑えることができるというメリットもあるかと思います。

最後に繰り返しとなりますが、令和2年2月27日にすでに施行済みですので、すぐに確認申請書に反映することができます。

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2020/5/29
T様のご指摘により、延焼ラインの高さ方向の算定式の誤りを修正しました。ありがとうございました。みなさまのご指摘のおかげでサイトの質が保たれています。
2020/6/10
別のT様から、隣地境界線からのみの場合でも緩和がある旨ご指摘がありました。告示をよく読んで追記、修正しました。ありがとうございます。みなさまのおかげでございます。

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