構造適判見直しに向けて、2月にもパブコメ実施予定
構造計算適判に実効性/手続き、対象見直し/国家資格・登録制を導入/国交省が報告
国土交通省は18日、社会資本整備審議会建築分科会の建築基準制度部会を開き、今後の建築基準制度のあり方に関する報告案をまとめた。実効性のある構造計算適合性判定の実施に向けて、申請手続きの仕組みの見直しや判定対象の変更、適判の質確保に向けた資格検定や登録制度の導入などを提言している。今後は年明けにもパブリックコメントを実施した上で2月に報告をとりまとめる予定。報告を踏まえ、必要な制度改正などを進めることになる。
建設通信新聞
記事の中では、構造適判の他にも、建築確認制度を効果的かつ実効性のあるものにするための見直しや木造建築関連基準の合理化についての対策等もありますが、ここでは構造適判に絞って考えたいと思います。
構造適判の手続きの見直し
判定機関の選択が可能に
構造適判の依頼は、現状では特定行政庁や指定確認検査機関から、適判機関に依頼されるという流れになっています。
この流れを変えて、建築主が直接適判機関に依頼できるようにし、あらかじめ適判機関で構造のお墨付きを貰っておいて、確認申請を提出するという流れになるとのことです。
そして申請の際に、申請者がどの適判機関に申請するか、自分で選べるというものです。
これは確かに、ありがたいと感じる申請者(代理者、設計者)が多いことでしょう。
とくに、北海道、千葉、長野、愛知、奈良、和歌山、大分は適判機関が極端に少なく、審査の大渋滞が起こっています。
また、適判機関の指定の権限が都道府県だけでなく、2以上の都道府県で業務を行う機関は国が指定するという見直しも考えられており、上記のような適判機関の少ない都道府県にとっては、流れが良くなることは期待できそうです。
適判審査期間の短縮につながるか
全国規模での申請の現状まで把握していないのでなんとも言えませんが、確認の構造審査と適判の審査が並列的に行われているのが実態なのではないかと感じます。
だから、このような制度に切り替わると、まず構造適判でOKをもらって、その後に申請だと余計審査に時間がかかるようにも思われます。
一方で、確認申請の構造審査において、「すでに適判を通過しているのだからざっくりでいいな」という思考にいたり、審査期間はほぼ意匠審査にかかる時間だけになり短縮されつつも、構造偽装事件以前の状態に戻ってしまわないかということが危惧されます。
また、建築主(基本的には代理者)が先に適判に構造審査を依頼する場合、適判が必要な建築物の要件をよくわかっておらずに申請してしまうことも考えられます。
親切な適判機関は別として、来るもの拒まずな機関では、申請されればなんでも審査してしまい、かえって時間がかかるような事にもなりかねません。
確認申請と構造適判のワンストップ化は見送り
また、構造適判の審査も行っている指定確認検査機関が、確認申請と構造適判をいっぺんに引き受けるいわゆる「ワンストップ化」については見送られたようです。
たしかに、ワンストップ化による審査期間短縮は確実に達成できると思いますが、これこそまさに耐震偽装以前に逆戻りになる改悪です。
期間短縮以外のメリットが考えられません。
指定確認検査機関の利益が確保されるという捉え方もあるでしょうが、構造適判制度創設の理念が失われる危険性が高すぎます。
見送りというよりも、検討除外でもいいのではないでしょうか。
構造適判対象の見直し
構造計算ルート2の建築物は条件付きで対象外へ
国交省の調査では、特定行政庁もしくは指定確認検査機関によるルート2の建築物について、単独審査で対応可能だと答えた割合が80%に昇ったそうです。
さらに、講習や研修により知識、技術を補えば90%が対応可能になるそうで、審査能力の向上が認められたとの判断によるそうです。
ただ、構造適判にまわる物件の総数のうち、ルート2の建築物の占める割合によっては、それほど適判対象建築物の現象にはならないと考えられます。
以下の国交省発表の資料の27ページを参照いただくとよくわかりますが、ルート3に比べてルート2の申請建築物は1割程度しか無いのが実態ですので、そうそうに判定対象からなくしてしまってもいいものと考えられます。
効率的かつ実効性ある確認検査制度等 確認検査制度等のあり方の検討
既存不適格建築物の増築の場合の構造適判適用
現状では、構造的に既存不適格建築物となることを証明できる建築物については、法20条が適用されないため構造適判が不要となっています。
これも確かに、スクラップ・アンド・ビルドからストックの有効活用という大義名分で法改正されたものですが、この制度を上手に利用して(悪用ではない)計画する物件も相当数あります。
正直、良い面と悪い面が混在しており、どちらかというと悪い面のほうがウェイトが重いように感じられます。
ストックを有効活用したものの、利用者の安全が確保されないというジレンマがつきまといます。
多少の費用と、時間はかかるものの、この見直しも早々に実現されるべきであると考えます。
判定員の質の確保
判定員の慢性的な不足
国交省の適判機関への調査によれば、判定員を十分に確保できていると答えた機関は全体の3割だったそうです。
しかも、判定員の4割が60歳以上で、若返りは喫緊の課題と言えます。
国は、判定員確保のための資格制度や登録制度の創設による人材確保を掲げているようですが、それが質の確保に直結するかは疑わしいのではないでしょうか。
むしろ、質が伴わない、頭数だけの増加に繋がる恐れもあります。
とは言っても、何もせず指をくわえているだけでは高齢化が進むばかり。
そもそも、建築を志す動機として、素晴らしいデザインの建築物を設計したい、と考える学生は多いでしょうが、安全安心な構造設計を生業にしたいと考える学生が少なすぎるのではないでしょうか。
国や大学、専門学校は、もっと学生たちが構造設計に興味をもつような取り組みを行い、底上げを図っていかないと、いつになっても定年間際の構造設計のベテランたちをリクルートし続けなくてはなりません。
構造適判制度見直しに関するまとめ
構造適判対象が削減されそうだとは言っても、総数の1割程度の削減にしか繋がりません。
審査機関の短縮により、建築物の安全性が担保されにくくなるのなら、審査の流れは大幅に変えず、判定員の人員確保、審査能力の向上を最優先で注力するべきでなないかと考えます。
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