安藤忠雄の新たな魅力を発見!「安藤忠雄の奇跡」を是非読んで欲しい

ando tadao kiseki

日経アーキテクチュアのNA建築家シリーズの特別編、「安藤忠雄の奇跡」を読みました。

現在(平成29年11月)、国立新美術館で開催中の「安藤忠雄展-挑戦-」とバッチリリンクする形での発売となったためか、Amazonでもジャンルランキング1位になるほど人気の模様です。

例によって、誌面の写真を載せることはできないので、テキストにて感想などをお伝えしたいと思います。

安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言 (NA建築家シリーズ 特別編)
by カエレバ

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50の証言にみる、安藤忠雄の人間性

この本は、安藤忠雄の主要な作品を紹介しているだけでなく、安藤忠雄と関わりのある、各界で活躍する人物による「安藤忠雄とは」ともいうべき文章が秀逸です。

しかもよくある過去のインタビューの寄せ集めではなく、ほとんどがこの本のための書き下ろしであるという点が素晴らしいですね。

これらの「証言」を読むだけでも、いままで知らなかった安藤忠雄の人間性がわかってきます。

ぜひともすべて読んでいただきたいのですが、中でも印象に残った部分について引用したいと思います。なお、敬称は略させてもらってます。

建築家:石山修武氏
「これがワイの最初の作品なんだ」。
そう言って見せてくれたのは、どこにでもあるようなブティックの、ウィンドウディスプレーの小さな白い棚だった。
見たときは特に何も思わなかったが、後になって気付いた。
彼はそれを壊させないように保存していたのだ。
自身のキャリアの始まりを強く自覚することは、他の建築家にはないことだ。

写真家:藤塚光政
住吉の長屋のファサードのボイドは、後の「光の教会」の十字に通じる
「有るのに無い、無いのに有る」という安藤の抽象性の真髄の初期だったのだろう。

画廊「ときの忘れもの」ディレクター:綿貫不二夫
絵のうまさで海外の建築家に対抗できる日本の建築家は、磯崎さんの他には安藤さんしかいない

安藤さんは自分のクライアントや付き合いのある人たちに、版画をつくったから買ってほしい、という手紙を送ってくれていた。
突然、日本中からお金がじゃんじゃん振り込まれ、驚いた管財人からその知らせを受けた時、私は泣いた。
一度しか会っていない私にここまでしてくれるのかと。
彼は作品を寄付してくれたのだ。

建築家(安藤忠雄建築研究所元所員):芦澤竜一
初めの仕事として、六甲(の集合住宅)の屋上緑化のメンテナンスを担当した。
竣工後もこうした配慮が行き届いている。
六甲に限らず、神戸市の北野町などもそうだが、1つの建築で終わらず、継続してちゃんとケアし、先のプロジェクトにつなげていく。建築も生き物のように考えて育てていく。

建築家:末光弘和
安藤さんから直接聞いた
「建て主も自分も3割ずつは妥協できる。そこから先は無理に進めてもうまくいかん」
という言葉は、今も鮮明に覚えている。
互いに3割は歩み寄れるという意味で、安藤さんでも建て主に対して譲ることがあるんだな、と印象に残った。

最も印象深いのは
「20代はとにかく経験を買え。20代で得た経験は30代の馬力になる」という言葉だ。

大和ハウス会長:樋口武男
安藤さんは話が上手なので、財界などの集まりでスポークスマンとして登場してもらう機会も多い。
グローバルに活躍し、多くの企業と仕事をして幅広い人脈を持っているから話題が豊かだ。
講演も聴かせてもらったが、自分を育ててくれた故郷・大阪に対する感謝の気持ちを忘れず、大阪を元気にしたいという無いように大変感銘を受けた。
ただし、事務所の跡継ぎを育てることはしていないようだ。
以前。「うちの事務所は1代でおしまいや」と語るのを聞いたことがある。少なくとも表向きは、そう言って割り切っているように見えた。
スタッフに仕事のチャンスを与えておき、あとは自立精神を持って自身で育てばいいという考え方なのだろう。
安藤さんらしいと感じる。

北菓楼社長:堀 安規良
でも会ってみると、とても優しい方でびっくりした。
安藤さんは「古いものを大事にするのは日本にとっていいことだ」と言って、1時間以上も話を聞いてくれた。
今でも忘れられないのは
「堀さん、コーヒーはどこでも飲めるんだ。この場所で飲んだコーヒーを一生忘れないような場所にしよう」
と言われたこと。
それでグッと来た。ぜひお願いしますということで話が進んでいった。
そうして素晴らしい建物が出来上がった。

ブルータス編集長:西田善太
安藤さんは必ず、様々なジャンルの「今の人」とつながっているところに驚かされる。
要は「ブルータス」や「カーサブルータス」が追いかけている「今の人」たちの真ん中に、安藤さんもいたということ。
そして安藤さんは、そういう文化人、俳優、デザイナーたちにもなかなかいないくらい、見え方、伝え方を考え続けている人だといえる。

心にしみる、安藤忠雄の言葉

京都の「TIME’S」について
公共的というところには、いつも問題が起こります。
私たちは、良い環境をつくるのであれば、周囲を考えて頼まれていないところも攻めていったほうがいいと思って、TIME’Sでは3期までの絵を描きました。

オーナーが2015年に亡くなって売却する話が出たので、私は積水ハウスと積和不動産に買ってほしいとお願いしました。すると購入してくださったうえに、全面的に改修し、元の状態に戻してくれた。
なぜかというと、京都の中心地で風景の一部と化しているので、守らなければならないと考えてくださったからです。

そういうことを考えると我々がつくる建築には未来がある。
魅力をつくると都市の価値が上がる。
そういう環境づくりが建築家の1つの仕事だと思うんです。そこを今の建築家は忘れている気がします。

国立競技場のコンペ白紙撤回について
稼働屋根をなくし1550億円というコストを抑えた新たな条件の下、最初のコンペに当選したザハ・ハディドがデザインをやり直すべきだったし、またそれをやり遂げる力がザハを筆頭とするチームにはあったと私は今でも思っています。

安藤忠雄建築研究所の継承について
私が死んだらこの事務所は閉じる考えです。
事務所が今までやってこられたのはまず、建て主のおかげです。自分の都合の悪いことは聞かない私を相手に、耐えがたきを耐えてくれた。そして事務所がうまくいっている理由は、所員がバランスをよく気を使ってくれているからだと思います。

私はできれば、住吉の長屋を買い取って一般に公開して見てもらいたいと考えています。我々の事務所も、閉鎖することになったら、建物も土地も大阪市に寄付した。資料館などにしてほしいと願っています。

自分が設計した建築を残していきたいという気持ちが強いか
自分が設計した建築は、時代を超えて残っていくものをつくりたいと、常に考えてきました。
私は、今ある既存のシステムを超えたものをいつも考えています。その際、権威の時代ではなく平等に物事を考える時代だということを表現したいと思ってやってきたんです。

「空から見た安藤建築」が楽しい

文章だけでは全然説得力がないので、ぜひ誌面で確かめてもらいたいのですが、空から見た安藤建築によって、改めて安藤建築のわかりやすさを感じることができると思います。

建築家や雑誌編集者、評論家はプロっぽい表現しか使わないのですが、私は敢えて言いましょう。

安藤建築とは「まる、さんかく、しかく(たまに楕円)の集合体だ」

幾何学の基本中の基本、子供が最初に描く絵はみんな、まるとさんかくとしかくですよね。

だから、年齢、性別、国籍を問わず受け入れられるのではないかな、と思っています。

非常にレベルの低い表現ですが、言い得て妙と自分では納得しています。

終盤の対談と「安藤忠雄年譜」による締めくくりがグッと来る

締めくくりとして、巻末の「安藤忠雄年譜」が結構すごいので紹介します。

年譜と言うだけあって、生まれたときからの年表となっています。
30歳の頃に一級建築士の試験に一発合格した、とか、1992年に受賞した国際建築家賞の副賞3000万円を大阪府に寄贈したとか、知られざる武勇伝が垣間見られます。

年ごとに、設計した建築が列記されているのも、時代順に安藤建築を巡りたい、なんてときに役に立つかもしれません。

最後に、50の証言の49番目、これは対談形式の記事なのですがそこから印象に残った安藤忠雄氏の話を抜粋したいと思います。

事務所の近くに「住吉の長屋」つくろうと計画しているんですよ。
一部、地上に庭を足しますが、建物は実際のものと全く同じものをつくります。そして5年ぐらい我々が使ったら、大阪市に土地ごと差し上げようと思っています。
市に渡してからは、蔵書を入れて建築資料館のような使い方をしてもらいたいと考えています。
若い人は、建築が見られないから面白くない。面白くないからやらない。やらないから仕事に選ばない、という流れができている気がします。

建築は本当に面白いと思うんですよ。こんなに面白い仕事はありませんからね。

前後の脈絡も含めて本を読んで、ぜひ安藤忠雄氏の言葉を噛み締めていただきたいと思います。

ついでに、この本の中で「野獣の肖像」という、安藤忠雄氏をもっと深く掘り下げた本があるということが紹介されていました。

最近、安藤忠雄フリーク熱が再加熱してきたので、「野獣の肖像」も読んで「安藤マニア」にまた一歩近づきたいと思います!!

安藤忠雄 野獣の肖像
by カエレバ

安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言 (NA建築家シリーズ 特別編)
by カエレバ

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