建築確認では避けて通れない、排煙関係規定。
その中でも、排煙口に設ける手動開放装置について、少し細かい点についてまとめました。
確認申請の審査時、もしくは完了検査時に「開放装置を押しボタン式にするべし」と指摘を受けたことがある方もそうでない方も、ぜひご確認ください。
建築基準法施行令:第126条の3 排煙設備の構造
まずは条文を確認してみます。
(構造)
第百二十六条の三
前条第一項の排煙設備は、次に定める構造としなければならない。
(略)
四 排煙口には、手動開放装置を設けること。
五 前号の手動開放装置のうち手で操作する部分は、壁に設ける場合においては床面から八十センチメートル以上一・五メートル以下の高さの位置に、天井から吊り下げて設ける場合においては床面からおおむね一・八メートルの高さの位置に設け、かつ、見やすい方法でその使用方法を表示すること。
六 排煙口には、第四号の手動開放装置若しくは煙感知器と連動する自動開放装置又は遠隔操作方式による開放装置により開放された場合を除き閉鎖状態を保持し、かつ、開放時に排煙に伴い生ずる気流により閉鎖されるおそれのない構造の戸その他これに類するものを設けること。(以下略)
手動開放装置であることと、高さの規定、使用方法の明示が記載されています。
ビルや店舗で見かける手動開放装置は、押しボタン式のものをよく見かけますが手動で排煙口を開放することさえできれば、押しボタン式でなくても問題ないのでしょうか。
排煙設備についての取扱をまとめた指針
上の問に対する答えは、以下の2冊に記載があります。
建築設備設計・施工上の運用指針 2013年版
新・排煙設備技術指針
それぞれ該当部分を抜粋します。
建築設備設計・施工上の運用指針 2013年版
P108より
手動開放装置については、次によること
1)設置位置は、原則として当該防煙区画内に設けること。
2)構造は、単一動作で操作できること。
3)電気式による場合は、予備電源が必要である。(電線は耐熱配線)
4)開放時にフック棒又はハンドル等を必要とする場合は、取り外しできないものを設けうること。
P109より
(2)手動開放装置の構造については、次によること。
①単一動作ができること(レバーを引く、ボタンを押す、チェーンを引く等)
②壁面に設ける場合は、床面からの高さが80cm以上1.5m以下とすること。
(窓の手がけは手動開放装置のうち、手で操作をする部分と解するので、同上の規定を定める)
③天井から吊り下げて設ける場合は、床面から概ね1.8mとすること。
④手動開放装置の使用方法等を表示すること。
ここでは、押しボタン式に限らず、フック棒やハンドル、チェーン、レバーといった開放装置について言及されています。
新・排煙設備技術指針では
P45より
(2)開放装置
a.自然排煙口の操作
火災時の場合、火災室の排煙口の操作は、避難時および避難後の火災室の圧力を減ずるためにも必要であるので、その方式は、単純で力が弱い人でも容易に操作できることが原則である。
(略)
b.開放装置の構造
①
現地手動による場合、単一動作で操作できること(例えば、レバーを引く動作や倒す動作。ハンドルなどの回転動作の場合は、1回転以内とすること)が望ましい。換気時操作が排煙時操作と異なる場合は、閉鎖状態からでなく換気操作時からの単一動作でもよい。
②
排煙口を自然換気として利用すると使用頻度が高くなるため、ワイヤーなどの調整が容易であること。
③
遠方手動および煙感知器連動により排煙口を開放する場合は、中央管理室に表示するための端子が必要である。
④
電動モーターによる場合は、非常電源が必要である。
ここでは、ハンドル操作の場合は1回転以内とすること、とより具体的な記述があります。
これらの記載からまとめると、排煙設備の手動開放装置のあるべき姿は、以下のようになります。
建築基準法施行令により
・手動である
・所定の高さに設置し、開放方法を表示する
建築設備設計・施工上の運用指針 2013年版
新・排煙設備技術指針
により
・開放装置は単一動作で操作できる
・力が弱い人でも容易に操作できる単純な構造
・レバーやチェーン、フック棒などは着脱できない方式
・ハンドル操作は1回転以内
上で紹介した2冊は、Amazon等では購入できません。
建築設備設計・施工上の運用指針は政府刊行物のサイトにて、また、新・排煙設備技術指針は日本建築センターのサイトにて購入できます。
建築申請メモや、防火避難規定の解説には記載されていない項目も多々ありますので、一度は目を通しておきたい参考資料です。
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まとめ:排煙口に設ける開放装置について
手動開放装置はボタン式でなければならないとまでは言い切れませんが、他の方法による場合、「単純・単一・簡易」「強い力を要しない」ということを前提にしていなければなりません。
したがって、押しボタン式でなければならないとは言えないまでも、火災時の安全確保のことを考えると押しボタン式が最適解になるのではないか、といえそうです。
実際、確認審査において押しボタン式にするように指導を受けるケースもあるようです。
竣工時の検査で指摘を受けると、現場を補正するのが容易ではありません。
コストや意匠的な面から、押しボタン式以外の開放装置を採用する場合は、事前に確認審査機関に検討しておくのが無難でしょう。
各種設備の細かい話になると、防火避難規定の解説だけでは知りえない情報もあります。細かい話ですが、知っておいて損はないでしょう。
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