新たな気付き、知識の向上に:「建築確認申請のポイント」

kakunin ポイント

新日本法規から確認申請関連の参考書籍、「確認検査員からみた建築確認申請のポイント」を買ってみたのでレビューしてみます。
が赤くなっているのが気になりますが、こういうデザインということで。

ちなみに、世の中「案件」が当たり前になっていますが私は自腹で買ってますのでご安心ください。

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序章:確認申請関連書籍のジャンル

最初にざっくりとこの手の確認申請関連書籍の必携度合いを確認してみますと、下のように大きく3つに分類できます。

①建築基準法令集+告示法令集(必携。持ってなきゃおかしい)
いきなり「メモ」や「プロ」でチェックしがちですが、とにかく法令集がないと始まりません。

最近の法改正で令112条は特に条文(項番号)が変わっています。基準法が古い人はすぐ更新してください。

ちなみに私は井上書院推しです。告示は別冊で欲しい派です。

②逐条解説的な解説本(必携に近い)
上に出てきた「メモ」や「プロ」がこれに該当します。慣れてくるとこの本だけでチェックしがちですが、最後は必ず法令集も見ましょう。

ちなみに私は「プロ」推しです。

②’防火避難規定の解説、集団規定の適用事例(必携に近い)
メモやプロでは掲載しきれていない、ほぼ全国共通の取り扱いが掲載されていますので、この2冊も必携です。
住宅しか設計しない、という方はなくても大丈夫かもしれませんが。

集団規定の適用事例はアマゾンでは買えないのでICBA(建築行政情報センター)のサイトで注文してください。

③Q&A的な解説本(必携ではないがあれば助かる)
今回ご紹介する本はここに該当します。「なくても困らないけど、あるとより捗る」本と言え、このジャンルはかなりたくさん出版されています。

ちなみに過去記事で、参考書籍まとめも書いてますので良かったらどうぞ。

建築確認申請でつまづかないために、座右にあると便利な書籍
建築確認のバイブル「集団規定の適用事例」と「防火避難規定の解説」
建築申請memoか、建築法規PROか。それが問題だ。

「確認検査員からみた建築確認申請のポイント」の特徴

point mokuji

じっくり通して読んでみて、簡単に本の構成や所感を書きます。

・例題を挙げその問題点を解説するタイプ。イメージしやすい。
・失敗から学ぶスタイル。
・章立てだが、単純に単体、集団という括りではなく辞書的にも引きやすい。
・現行法令(2020年6月時点)で書かれている。
・検査や構造、設備にも言及しており汎用性が高い。
・大半が見開きで参照できる編集で、見やすい。
・「コラム」としてまとめている内容の有用性が高い。

・内容が濃いので仕方ないが、お値段高め。
・「特定行政庁や申請先に聞いてみよう」という記述が多い。仕方ない部分もあるが。
・電子版(デジタル版)もあるともっと良かった。

総合的に見て読みやすく、内容の充実度も高いと思います。
私もそれなりの知識があると思い込んでいましたが、結構新たな気付きがあったり、なるほどと思う部分多々もありました。

せっかくなのでどういった部分が有用と感じたか書いておきたいと思います。

「確認検査員からみた建築確認申請のポイント」のここが良かった

申請書の書式や多いミスに言及している
書式は基準法で定められています。勝手に改ざんできない点についても触れられています。
未だに4面が古いままの申請もありますから、書式の改正にも注意を払いたいものです。

個人的には、申請書と概要書が一度に作成できるソフトを利用して確認申請書を作るべきだと思います。申請書は修正したけど、概要書が修正されていないというミスが未然に防げます。。

法文の読み方、用語のまとめ
以上以下や未満、超える超えない、及び、並びになどといった表現の捉え方を再確認できます。

コラム:確認申請業務の時短のコツ
これは設計者にとって新たな気付きがある部分だと思いました。
細かい人ほど概要、配置、平面、詳細図などに同じ事を書き込んでいたりしますが、修正があるとそれら全部を直さなければならないんですよね。
適合の根拠はある程度まとめて書いてもらうほうが、お互いラクなのではと思います。
審査者の目線でのコラムですね。

10㎡以内の建築物
「10㎡以内ならすべて確認申請不要」と誤って覚えている設計者は実に多いです。
新築の場合は必要なんですよ、知ってました??

水素スタンド用コンテナ
このページが役に立つ人がどれだけいるのか、という意味で印象的でした。
燃料電池自動車(水素自動車)は本当に世の中に普及するんでしょうか。

2以上地域にわたる場合
他の参考書籍より細かく記載されていると思います。
しかしながら、私がまとめた記事のほうが良いかもしれません(笑)
敷地が2以上の用途地域、区域、地区にまたがる場合 総まとめ

単独の確認申請が必要な建築設備
給水タンクの増設で建築確認が必要な場合があるというのは、正直知りませんでした。勉強不足を痛感しました。
特定行政庁によって指定の違いがありますので、少なくとも自分がよく設計する地域については改めて確認しておいたほうが良いですね。
小荷物専用昇降機のテーブルタイプでも確認申請が必要な地域と不要な地域があるのと同じですね。

昇降機の確認申請
4号建築物に設置する昇降機は別願できないのは、あまり知られていないかもしれません。
今後、住宅への昇降機の設置は増えるでしょうからしっかり押さえておきたいところです。

アルミニウム合金造の駐輪場
アルミ造は令80条の2における「特殊な構造方法」となりますので、特例対象の規模でも省略できない図書があります。本の中では構造図書の添付も必要とありますが、添付図書の程度は特定行政庁が運用を定めている場合もあるので、確認してみるといいでしょう。
例えば、アルミ造なんかだとメーカーが造っている告示適用チェックシートの添付で良しとしている場合などです。

検査関係
中間検査の特定工程や、工区分けについて言及しています。特定行政庁ごとの特定工程の指定や工区分けの際の検査対象工区は実にさまざまなので要チェックです。
また、外構工事の完了を甘く考えているケースが多いというのは実に的確な指摘です。
建築確認は建築物だけについて審査しているのではなく、敷地全体も審査対象に含まれているのです。

仮使用認定申請
この手の書籍で仮使用認定に言及しているものは初めて見ました。
これまで特定行政庁のみが可能だった許可ですが、民間でも可能な仮使用は「認定」として運用されていますが、民間に申請できるのかどうかが設計者にはわかりずらいものとなっているのが現状です。
この本にすべてが網羅されているわけでないものの、最初の判断として有用でしょう。

学校の内装制限
学校やスポーツ練習場は無条件で内装制限がかからないと思っていませんか。
関連する規定から内装制限がかかる場合もあるので、注意しましょう。
排煙設備も不要なので1/50開口もおろそかになりがちですが、所定の開口が無ければ結果として内装制限がかかります。

面積区画の緩和
防火区画免除願の参考書式が掲載されていて驚きました。
ただ、ちょっとネットで調べてみると群馬県(高崎市)が書式を公開していますね。
リンクを貼っておきますので参考にどうぞ。

pdfファイルが開きます。165ページあたりに掲載されています。
群馬県建築基準法例規・基準集

防火防煙スクリーンによる防火区画
いわゆる不燃スクリーンシャッターによる避難経路上の防火区画は、防火避難規定の解説でも「望ましくない」ものとされています。
この本の中でも結局は「特定行政庁に聞きましょう」となっていて、ケースバイケースというのが結論でしょう。

すなわち大臣認定品とはいえ、まずは使用可能かの確認が重要です。
また、防火区画に関しては最近の法改正でかなり緩和や追加が行われていますが、その点についてコラムとして読み応えある記載があります。

そしてこれを機会に法令集も新しくしましょう。

廊下について
廊下の有効幅員からは手すり分は除けませんよ、という当たり前のことが書いてありますが、階段の有効幅員と混同している人も多いのかもしれません。
また、3室以下の専用の廊下という定義についての解説もあります。

2以上の直通階段の緩和
2直の階段について緩和して、さらにそれを利用して避難階段の規定も緩和しようとするケースがあるらしいです。
正直あまり考えたことがなかったのですが、こういう良いとこどりで解釈してしまう設計者にこのメッセージは届くのでしょうか。
これを読んでいる皆さんだけでも、是非注意してください。

吹き抜けの排煙設備
吹き抜けを通じて上下階で同時に排煙を取ることはままありますが、基本はこの本にもあるように「避難上支障がないこと」が大前提です。
上階と下階から同時に排煙設備が開放できさえすればいいというのは短絡的に過ぎます。

非常用の進入口が必要な外壁面
同一敷地内に複数の3階以上の建築物がある場合の道路面と敷地内通路の捉え方は、「なるほど、そりゃそうだ」と考えさせられました。
既存建物がすでにある敷地内に新たに建築物を増築する場合などは十分に注意しないといけないでしょう。

避難安全検証法について
避難安全検証法について、しかも制度の概略ではなく計算方針について言及している参考書式は、避難安全検証専門の書籍以外では初めて見ました。

大半の設計者は自身では計算せず、専門の事務所に依頼するのだと思いますが、基本的な考え方は知らないとマズイです。

安易な風除室の設置はダメ事例の最たるものですが、他にも通常は軽微変更で対応可能な建具幅や間仕切り位置の変更も、検証法を行っていればすべて計画変更が必要となることも理解したうえで採用すべき計算です。

避雷針と閃絡
「閃絡」というワード、初めて知りました。お恥ずかしい。英語では「flashover」となり、こっちのほうが何となく現象をイメージしやすいです。
こんな気付きもあります。

別願予定のエレベーターの図面
エレベーターが別願であっても、基本的な図面は建築物の確認申請図書として添付する必要があります。
設備一級の関与が必要な建築物であった場合、添付されたエレベーター図面には設備一級の記名押印が必要となります。
さらに、エレベーターの荷重が建築物本体へ及ぼす影響についての所見(図書)には構造設計者の記名押印が必要です。

構造関係について
建築確認申請はゼネコンは別として、主に意匠事務所がリーダーシップを取っていることが多いかと思います。
構造関係図書に記載されている階数や高さ関係については意匠と構造で考え方が異なる場合もあり、意匠設計者といえども基本的な部分は押さえておかないと、構造事務所に指示することもできません。
安全証明書の有無なども含め、意匠と構造で連携するものも多いので気が抜けません。

道路に関する誤り・用途について
集団規定の勘所、道路についてまるまる1章が充てられています。
用途関係もまた然り。
ただ、ほぼすべてが「集団規定の適用事例」にあるものと同じ感じでした。
民泊についての、建築基準法以外の法律での区別については有用だと思いました。

面積・高さに関する誤り
これも「集団規定の適用事例」を踏襲しています。
やや複雑な事例についての判断基準は、傾斜地の多い地域で設計している人にとっては大いに役に立つでしょう。

その他
天空率の適用の可否、大規模修繕・模様替えが適用される「過半」の判断、避難経路上の防火戸(主にシャッター)の危害防止措置の既存遡及、といった知っているようで意外と知らない点も、一度読んでおくと「そういえば何かあったような」と頭の片隅で引っかかってくれます。

「確認検査員からみた建築確認申請のポイント」のまとめ

こんな人は買うべき
・新たな気付きが欲しい人
私も確認検査員ではありますが、いくつか「おっ!」という気付きがありました。正直、買ってよかったです。

・建築基準法についての習熟度を高めたい人
より深く建築基準法を理解して、設計に活かしたいという意欲のある人には有用でしょう。

・建築確認申請(法規チェック)を効率化したい人
無駄な指摘やその修正を減らし確認申請に充てる時間を短縮させ、もっと設計の本質的な仕事に時間を割きたい人にも効果があると思います。

こんな人はやめておこう
・法令集をまんべんなく解説して欲しい人
メモ、プロ、目からウロコ、のような全体を網羅した本ではないので、それらの本を補うという意味での利用を前提としましょう。

・実務経験が少ない人
いきなりこの本を読むと、ただでさえ敬遠しがちな建築基準法がより嫌いになってしまうかもしれません。法規チェックや確認申請の場数をある程度こなしてから読むと多くの発見があるでしょう。

・2年以上前の法令集をいまだに使っている人
参考書籍に手を出す前に、まずは法令集を新しくしましょう。スマホは2,3年で新しくするくせに法令集は古いままなんてナンセンスの極み。法令集は重要な仕事道具です。

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