「建築法制の制度展開の検証と再構築への展望」を読んだら意外とツボに

「建築法制の制度展開の検証と再構築への展望」を読む機会に恵まれましたので、ご紹介したいと思います。

近代建築法制100年というサブタイトルのとおり、日本における近代建築法制について様々な観点からまとめている書籍です。

内容は目次から推測いただくとして、正直、非常に小難しい内容です。

ですが読んでみると、常日頃漠然と抱いていた「建築確認って、そもそも何か中途半端な制度だよな?」という疑問が、第3章の「3.1 制度・基準体系の展開と課題」のあたりでぼんやりとわかってきました。

1、2度読んですっかり理解できる能力もないので、もっとも気になった項目「3.1.1 建築手続-建築確認・検査制度」から抜粋することで、エッセンスだけでも共有したいと思います。ほとんど備忘録です。

しっかりと正確な理解のためには、全文を読みかつその他文献などを読んで理解を深める必要があるので、あくまで雰囲気を知ってもらうためのものです。

興味が湧いた方はぜひ手に取って読んでみてください。

行政側と民間側のせめぎあいや、行政内部でのイザコザにも触れられており、読んでみると意外な部分で面白かったりします。

以下の記述おいて、クオーテーションマークで括られている部分についてはすべて
「建築法制の制度展開の検証と再構築への展望」日本建築学会 編 技報堂出版
を出典元としています。

スポンサーリンク

(1)はじめに より

建築確認・検査は市街地建築物法下で実施されてきた都道府県知事による認可・届け出に代えて、戦後、建築基準法によって新たに創設された制度である。他の先進諸国である米国、英国、ドイツなどでは、建築手続きは基本的に許可制を採用しており、建築確認は日本独自の制度といえよう。

1960年代後半の建築許可制度導入の試みと挫折、1990年代後半の建築確認・検査の民間開放の経緯を振り返り・・・

(2)建築確認・検査制度の成立 より

a.建築確認

戦後まもなく戦災復興院が設置され・・・新建築立法が謳われた。その立法作業は建築局監督課で進められ・・・GHQからの指令により建築統制事務への集中を余儀なくされ、法制化作業は打ち切られることとなる。

建築手続きについて、戦術の建築法草案では、すべての建築物を対象に認可制度を採用することが提案されていた。・・・ところが翌月の建築指導課の草案で、その手続きは「認可」から「確認」へと変更され・・・

当時の苦しい財政事情から、全建築物から手数料を徴収するために従来の届出制を認可制に格上げすることにした。ところがその要綱を省議に諮った際、「住宅建設の促進が急務の今日、法を田舎の住宅にまで適用しかつ認可制にするのは、行政簡素化の趣旨からも適当でない」・・・建築の手続きは省略して建築士等が自主的に守るようにしたらどうかと提案して了承された

都市でも住宅の建設は一切自由にして促進をはかるべき・・建築物法などは天下の悪法だ、といわんばかりの空気・・・規制強化の印象を与える認可制はもはや通るすべがなかった・・・やむなく・・・編み出された建築確認であった・・・

b.完了検査

「モノの規制」である建築基準法・・・「ヒトの規制」である建築士法

新たに資格化する建築士に全面的に設計・工事監理を担わせることで、建築物の法基準の遵守を最低限担保し、建築主事の審査や検査は補完的に行うべき

・・・建築士の範囲や役割を戦前の建築家のごとく限定的に解釈し、特定建築物のみに建築士の設計・工事監理を義務付ける案に修正してしまう・・・

・・・その後の法案作成過程の中で、建築士が工事管理を行うか否かにかかわらず施工完了時に1回のみ検査する制度へと形を変えざるを得なかったものの、最終的に完了検査制度として実現を果たした

c.制定関係者の認識と期待

建築確認は「善意の設計者がうっかりミスで違反をしないようにというのがもともとの発想の原点」

申請者を「お客様」と呼び、建築主事は数十分ほどの短時間で主要事項のみをチェックし、不適合個所は「お客様」に自主的に訂正していただくというストーリーを描いている。まさに申請者の設計図書を「サービス」として建築主事が見て差し上げるイメージ

・・・一方で・・・特殊建築物や集団規定に係る事項を除いて、その責任は建築士に任せて、建築確認や検査は省略されるべき・・・

1950年代後半になると空前の建築ブームもあいまって防火や建ぺい率違反の建築物が続出し始める・・・

担当者が完了検査に行っても殆どが違反建築物で検査ができない、現場へ行っても無駄であるという無力感が浸透していた・・・

「建築士が設計した建物の確認申請書で訂正を要するのが5割以上」

建築確認事務にマンパワーが割かれ、完了検査はますます形骸化するという悪循環

(3)採用を断念した建築許可制度 より

a.改正に向けた検討

建築士に対する指導、監督体制が確立されれば、建築物の構造等を規定している単体規定についての確認及び検査業務については、その一部を建築士に権限を委譲することが可能

「建築基準法改正基本方針」(1968年)では、建築規制事務を都道府県のほか人口10万人以上の市の長に担当させ・・・建築確認制度を廃止して建築許可制度に変更する方針・・・

b.建築許可制度への反発

この基本方針は建築界に大きな波紋を呼び、各団体から建築許可制度に対する懸念や反対の表明が相次いでだされることとなる。

そしてついに菊竹清訓、川島甲士、大谷幸夫、村松貞次郎ら建築家、建築評論家など建築界有志38氏による「建築許可制に対する反対声明」(昭和43年3月11日)が発表される。・・・「権力の不当な介入や政治的圧力によって、合法的事業計画が否認され、修正される可能性が極めて強く、そこには恣意的な権力の行使、濫用、そして利権をめぐる汚職の続発などが予想され、明らかに国民の正当な権利を侵害し、政治の姿を歪めるものといっても過言ではない」「いまや危殆に瀕しつつある民主主義的建築行政を擁護するために断乎として戦う」と、きわめて激しい態度での反対意見が表明されたのであった。

c.建築界の足並みの乱れと結末

この改正方針には・・・単体規定の適用については建築士に任せるとの方向も含まれていた。・・・その内実は運用委任によって建築士の社会的地位向上(そして自主的な自覚や責任の確立)を図り、それに合わせて建築士会への加入拡大を狙うといった、希望的かつ打算的な側面を帯びたものであった・・・

かくして1968年春の建築基準法化成案の国会提出は見送りとなり、建築確認制度を廃止し建築許可制度にする試みは断念することとなった。

(4)建築確認・検査制度の民間開放

a.改正背景

改正の直接のきっかけは、阪神淡路大震災である。被災地で、木造住宅の耐力壁の不足、鉄筋コンクリート造等の構造計算での不適切な設計、鉄骨の溶接工事やコンクリート工事等での不適切な施工などによる建築物倒壊が多数確認され、建築確認・検査の在り方が改めて問われたのである。他方で日本の建築着工件数年間約110万件に対して建築主事数は約1800人に過ぎず、建築主事1人当たりの建築確認・完了検査業務は年間約600件に昇り、完了検査率も35%にとどまっていた・・・

b.基本問題分科会における審議検討

・・・建築主事が審査する事項は集団規定のみとし、単体規定については一定の資格のある建築士や民間組織が行うこととすべき・・・一方、建築界からは、「建築士の自己責任で良い」「確認は集団規定のみとし単体規定については完了検査制度にゆだねるべき」など建築士に任せるべきとの意見が強かった

最終報告では、「一定の要件を満たす民間企業・団体等が、建築主の依頼により、建築計画の確認、施工時の中間検査や工事完了時の完了検査等を実施する途を開くべきである」と明記される一方、設計者等への自己認証の拡大については「その可能性について今後さらに検討する必要がある」という記述に留められることとなった。

c.市街地環境分科会における審議検討

基本問題分科会はあくまで単体規定を検討範囲としたものであった。日経アーキテクチュア(1997/5/5号)には、「審議会の三つの分科会の内容をすり合わせる段階で、集団規定まで射程範囲が広がった」と記されている。このことは建築主事会議で議論を重ね、「まちづくりは行政が行う」との観点から、「単体は民間に任せて、集団は基本的に行政が押さえるべき」との見解で合意していた特定行政庁にとっても寝耳に水であったという。

「単体規定においては、規制を遵守することのメリットと建築主のメリットが一致しやすいが、集団規定においては、同一の敷地でより自由な建築をしたいとする建築主の要望と、市街地環境の確保という目的が必ずしも一致しないという特性がある。審査・検査業務については、単体・集団規定あわせての行政の効率化と両者の性格の違いの双方の視点から総合的かつ慎重な検討が必要ではないか」と、たしかに集団規定における確認・検査の民間開放にはやや慎重な構えをみせていた

ところがその後、・・・「・・・まちづくりと深く関連する誘導行政の分野へと地方公共団体のマンパワーの重点化を図ることが重要」であり「・・・合理化を図りつつ、違反対策等の充実を図る」ためにも「体制の整備について、今後、基本問題分科会と連携を図りつつ、検討する」方向にトーンが変わる。具体的内容として、「確認について民間を活用することについては・・・単体・集団規定をあわせた行政の効率化を念頭において、総合的に検討」し、検査についても「マンパワーや費用の確保の問題、単体規定とあわせた効率化等を総合的に勘案しつつ工事監理報告書の充実及び完了検査の実施を中心に検討する」ことが示された

(5)歴史的変遷から見た建築手続きの課題 より

第一に建築確認そのものの在り方である。・・・法制定以降70余年変わらぬまま今に至っているが、その見直しが全く検討されなかったわけではない。・・・とくに集団規制において、建築手続きは羈束行為である建築確認のみによるのでなく、自治体による独自条例の積極的活用、行政裁量のある建築認可制度の導入可能性など、幅広くけんとうされるべきではないだろうか。

第二に、建築士制度との関連である。・・・1960年代後半に単体規定の適用を建築士に委ねる内容が検討されたが実現に至らず、1998年の建築確認・検査の民間開放の議論でも、民間設計者による自己認証の方向はとられずに、行政に代わる民間機関が確認・検査を行う仕組みが選択された。建築士に設計・工事監理の業務独占資格を与えながらも、いまだその信頼性に疑問が投げかけられている事を物語っている。

第三に、民間開放で生じた成果と課題である。・・・たしかに民間機関の導入によって建築確認の迅速化や完了検査率の向上につながったことは間違いない。しかし、集団規定をも含めて民間機関に委ねたことは、結果的に特定行政庁の弱体化を招くことになった。・・・建築確認の審査・検査能力ばかりでなく、違反建築の取り締まりやまちづくりなど建築行政全体にその影響が及んだのである。この状況を、全国の建築行政組織を維持するために建築確認という制度を編み出した先人たちが見れば、何とも皮肉な結果となった、と思うのではないだろうか。

クオーテーションマークで括られている部分についての出典
「建築法制の制度展開の検証と再構築への展望 日本建築学会 編 技報堂出版」

スポンサーリンク
関連コンテンツ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする