建築基準法の改正に伴い発出される技術的助言。
各規程の考え方や取り扱いをかみ砕いて解説してくれているものも多数あり、建築基準法を解説した書籍同様に貴重な存在です。
建築行政情報センター(ICBA)に会員登録(有料です)していれば技術的助言は参照できるのですが、このたび新日本法規より「建築申請に役立つ 技術的助言ガイドブック」が出版されたようなので買ってみました。
実際問題として、技術的助言をグーグル先生に聞いてみてもなかなか、というよりほとんどヒットせず、見たくても見られないことが多いのです。
この記事では書籍の紹介や法令データベースシステムについて紹介しつつ、せっかくなので重要そうな技術的助言をまとめてみます。
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建築申請に役立つ 技術的助言ガイドブックはこんな本
3800円(税別)するだけあって、ページ数はたっぷりあります。
ソフトカバーで扱いやすい装丁となっています。
目次はこんな感じです。
関連条文ごとに、技術的助言が古い順に並べられています。
法改正経緯を順を追って理解することにも役立ちそうです。
全目次は新日本法規の公式サイトで確認できます。中身を試し読みすることもできますので、気になる方はどんな感じでまとめてあるのか見てみるといいと思います。
建築申請に役立つ 技術的助言ガイドブックを読んでみて感じたこと
まだ使い込んだわけではないのですが、現時点での使い勝手や感想、気づいたことを述べます。
●「基準総則・集団規定の適用事例」や「防火避難規定の解説」に掲載されている取り扱いにも、技術的助言を根拠としたものが多くある。
●技術的助言を分類別、時系列的に列記してあるが、それらの内容についての解説は無いのがすこし残念。
●巻末の索引はキーワードと通知年次の2通り掲載されている。
●共同住宅における防犯上の留意事項および設計指針が発令されているのは驚いた。合計24ページにおよぶ項目で、共同住宅関連の設計が多い人は目を通しておくといいのかもしれない。
●P132の防火設備に関する項目をデータベースで検索しても、該当する技術的助言がヒットしなかった。グーグルで検索したら、ビューロベリタスのサイトで内容を確認できた。どうなっとるんじゃ、という気がした。
●技術的助言を読むと、法や改正の趣旨がわかりやすく書いてある場合があり、解釈や理解の助けとなることがしばしばある。
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法令データベースシステムとは何か
調べたい技術的助言がだいたい見当がついているとか、常に最新の情報を参照したいという場合は、思い切ってICBAの法令データベースを利用するのも手かもしれません。
上で紹介した技術的助言ガイドブックは、時間が経てばどうしても内容が古くなります。今後、数年ごとに新しいものが出るかもしれませんが、技術的助言自体がそんなに頻繁に発出されるものではないため、何とも言えません。
会費は初年度13200円、その後の更新費用は12100円で、月々1000円程度なので決して高額ではないと思います。技術的助言だけでなく、建築基準法、告示、通知通達も当然参照可能ですから利便性を感じる方も多いのではないでしょうか。
実際の検索画面は上の写真のようになっていて、対象、キーワード、日付などから絞り込めます。
他にも、現時点で有効な最新の法令、法令の改正経緯(履歴)、建築士法に関する法令も検索できるようになっています。
完全ペーパーレスを目指している方にもいいんじゃないでしょうか。
kenkihou的 重要な技術的抜粋
この項目では、技術的助言ガイドブックを一通り読んでみて、改めて重要だと思う技術的助言について簡単な解説とともに列記します。
内容は省いているものが多いので、詳細はガイドブックまたはデータベースで確認してください。
コンテナを利用したカラオケルーム、倉庫の建築物としての取り扱い(法2条)
RC造の基礎が必要であること。
随時かつ任意に移動できないコンテナは形態および使用実態から建築物に該当する。
トレーラーハウス、仮設トイレの建築物としての取り扱い(法2条)
トレーラーハウスのうち、規模、形態、設置状況(設備配管等および階段、ポーチ、ベランダも含む)から判断して随時かつ任意に移動できるものは建築物に該当しない。
仮設トイレも上記と同様。
小規模な倉庫との建築物としての取り扱い(法2条)
小規模な倉庫のうち、外部から荷物の出し入れができ、かつ、内部に人が立ち入らないものは建築物に該当しない。
当サイトのまとめ記事があります。
結論!「小規模な倉庫は建築物に該当しない」:基準総則・集団規定の適用事例2017年度版
「小規模な倉庫の取扱い」:特定行政庁ごとのまとめ
建築確認Tips 小規模な倉庫の建築基準法上の取扱い:国交省の技術的助言
建築確認Tips 庭先のプレハブ物置は建築物なのか?
建築確認Tips 庭先の物置の基礎はコンクリートブロックじゃダメなのか?
採光のため開口部を設けることを要しない居室の取り扱い(法28条)
温湿度調整を必要とする作業を行う作業室として
・大学や病院等の実験室や研究室
・手術室
・エックス線撮影室
・厳密な温湿度調整が必要な治療室、新生児室
用途上やむを得ない居室のうち
①開口部を設けることが望ましくない室
・音楽練習室、リスニングルーム等(諸条件あり)
・放送室、スタジオ
・視聴覚検査室など、外的要因を遮断すべき室
・暗室、プラネタリウム、映写室
・大学、病院等の消毒室、クリーンルーム
・自然光が診察・検査の障害となる居室
②未成年者、罹病者、妊産婦、障害者、高齢者等以外の者が専ら利用する居室で法28条1項の規定の適用を受けない居室
・事務室、会議室、応接室、職員室等の執務を行う室
・調理室、印刷室、飲食店の厨房等
・劇場、演芸場、観覧場、公会堂、集会場(いずれも舞台や固定席のある規模のもの)
・管理事務所、守衛室、受付室、宿直室、当直室等
・物販店の売り場に類する居室
屎尿と合併して処理することができる雑排水の取り扱い(法31条)
排水の性状及び特性からして、屎尿と合併して処理することができる雑排水として扱っても支障がないことが明らかとなった業種が通知された。
詳細は省きますが、小規模工場等の計画が多い方は役に立ちそうです。また、実際は管轄の保健所とも協議するべきかと思います。
既存不適格調書の添付図書としての必要事項(法86条の7)
既存不適格建築物の増築等で法86条の7の適用を受ける場合、既存不適格調書の添付が必要となっているが、その具体的な内容について示された。
現況の調査書、既存建築物の平面図及び配置図、新築又は増築等の時期を示す書類、基準時以前の建築基準関係規定への適合を確かめるための図書等
の大きく分けて4つの項目。
書式に定めが無い点もポイントかもしれません。
用途変更の手続き、適用規定、遡及適用範囲等の取り扱い(法87条)
用途変更の手続きについてのアドバイスがたくさん。
詳細は省きますが、今後の建築業界で無視できないのが用途変更。
知っておいて損はない項目かと思います。
共同住宅における防犯上の留意事項
この技術的助言の目的は
「共同住宅の新築、改修の企画・設計を行う際に必要となる住宅の構造、設備等についての防犯上の留意事項を示すことにより、成熟社会に対応した住宅ストックの形成を図ることを目的とする」
です。
様々な防犯措置に対する記載があり、初出は平成13年で、平成18年に改正されています。
さらに詳細に多くの項目にわたって設計指針も定められています。
共同住宅の設計に携わる方は、念のため再確認してみることをおすすめします。
耐火構造等の認定を受けた外壁に張ることができる材料
防火避難規定の解説では、告示仕様の耐火構造の外壁の外側に木材等を張っても支障ないという解説がありますが、こちらは認定材料の場合の規定です。
この技術的助言では、窯業系サイディングを用いるものについて、耐火構造、準耐火構造、防火構造と性能ごとにどのような材料なら可能かが記載されています。
平成27年に発出されています。
建築物におけるカーテンウォールの構造方法
これはネットで検索してもサクッとでてくる、有名なヤツですね。
防火設備におけるアルミニウム合金製、樹脂製、木製等の位置づけ
「防火設備の構造方法について、アルミニウム合金製、樹脂製、木製及び耐熱強化ガラス、耐熱結晶化ガラス等のものについても、告示に位置付けられ、平成31年3月29日に施行された。
その告示の位置づけ内容および留意事項について、以下の通知で示されている」
これまで防火設備に該当する窓としては「鉄及び網入りガラスで造られたもの」のみが規定されていましたが、法改正後の告示により木製や樹脂製の枠も規定されたことについて解説している技術的助言です。
断熱性能をよくするためには樹脂製のサッシの利用が進んでいるものの、防火設備はいつまでたっても認定品しか使えないという不合理が解消された、と言いたいところですが、この告示も現時点では片手落ちな規定です。
というのも、開閉方式が嵌め殺しに限定されているためです。開く窓は現時点でも結局認定が必要です。
小規模な特殊建築物における構造制限等の緩和
「小規模な特殊建築物について、在館者が迅速に避難できるために・・・(中略)緩和のほか、床面積200㎡以下であれば確認申請が不要とする緩和、それらについての運用における細目」
として、発出された技術的助言です。
建築確認が不要となる規模がかなり拡大(緩和)されたので、記憶にしっかりと焼き付いている方も多いかと思いますが、今一度この緩和の趣旨や具体的な内容について確認しておくのも悪くないと思います。
廊下、避難階段等の規定による別の建築物とみなす取り扱い
「通常の火災時において相互に火熱又は煙もしくはガスによる防火上有害な影響を及ぼさない構造方法を定める件」(平成28年国交省告示695号)
上記告示についての解説となる、技術的助言です。
既存ストック活用の旗印のもと、増築の計画で有効な告示ですので改めて確認しておくといいと思います。
幼保連携型認定こども園に対する規制の適用、幼稚園型認定こども園に対する規制の適用
詳細は省きますが、建築基準法上の運用についての技術的助言で、かなり詳細にわたり解説があります。
一読しただけではなかなか理解できませんが、条文だけでは全然理解が進まないので、役に立つ技術的助言だと思います。
防火上主要な間仕切り壁における準耐火構造等の取り扱い
・防火上主要な間仕切り壁について、床面積が200㎡以下の階又は床面積200㎡以内ごとに防火区画した部分で、自動スプリンクラー設備等を設置した場合は、準耐火構造とし、小屋裏又は天井裏に達しなくてもよいとする政令改正(平成26年7月1日)
・上記を踏まえ、小規模な居室に対して類似の措置を取ることで準耐火構造としなくてもよいとする告示(平成26年8月22日)
・天井の全部が強化天井等の場合は、小屋裏又は天井裏に達しなくてもよい(平成28年6月1日)
上記3点の合理化規定(緩和規定)についての技術的助言です。
さらには「防火区画に用いる防火設備等の感知器の短絡防止措置」という項目もあり、いずれもまだ防火避難規定の解説に掲載されていないため、把握しておくと設計作業、法検討もしやすくなるかと思います。
第一種(第二種)低層住居専用地域内での用途規制の適正化 など(法48条)
「基準総則 集団規定の適用事例」にも用途関係(法48条関係)の記載が多くありますが、技術的助言を見てみると集団規定の適用事例に記載のない項目も多くあります。
多少古臭いものもありますが、微妙な用途でチャレンジするようなとき、非常に役に立つと思います。
場合によっては、審査機関や行政でも見落としているようなものもあるかもしれません。
宅配ボックスの設置部分における容積率算定の取り扱い
図解付きの技術的助言です。
利用できる緩和はとことん活用しましょう。
エキスパンションジョイント等を用いて既存不適格建築物の増築又は改築を行う場合
詳細は省きますが、意匠設計者であっても構造関係の取り扱いで基本的な部分は押さえておく必要があると思います。
必要に応じて、「プロが読み解く 増改築の法規入門 増補改訂版」を活用するとはかどります。
また、既存不適格建築物で構造緩和規定を適用する場合であっても、「昇降機の脱落防止措置」や「多雪区域以外の区域での積雪荷重に関する規定」は現行法に適合させなければなりませんので注意が必要です。
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建築申請に役立つ 技術的助言ガイドブックと法令データベースシステム まとめ
実務でのかかわり方で、ガイドブックを買うのか、それとも法令データベースを活用するのかは変わってくると思います。
それぞれ一長一短ありますので、検討してみるといいと思います。
ちなみにガイドブックのはしがきに、以下のような記載があります。
建築申請memoを活用している方も多いでしょうから、その最新版と技術的助言ガイドブックを合わせて参照すればよりスムーズに設計検討や法チェックが行えるようになるのではないでしょうか。
個人的には、そこに「防火避難規定の解説」と「基準総則 集団規定の適用事例」が加わると鬼に金棒かな、と思います。
ちなみに「基準総則 集団規定の適用事例」の最新版はアマゾンでは買えないのでご注意ください。
(建築行政情報センター ICBAのサイトから購入できます。)
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